かつてヤングジャンプに「孤高の人」という漫画が連載されていたのをご存じだろうか。
孤独な青年・森文太郎は転校初日、同じクラスの宮本にけしかけられ校舎をよじ登ることに。一歩間違えば死んだかもしれない、だが成し遂げた瞬間の充実感は、今までになかった「生きている」ことを確かに実感するもの…。文太郎はクライミングへの気持ちを加速させはじめた――!!

心を閉ざした主人公がクライミングと出会い、仲間やライバルと共に成長していく青春熱血スポーツ漫画……となるハズだった。
以下に、コミックを未読の方に向けて、主要人物の境遇をスポーツ漫画の金字塔、SLAM DUNKの登場人物と比較してみた。
なお、キャラの造形的に、主人公が流川、ライバルキャラが桜木と置き換えている。

まず、主人公である流川はクライミングの魅力に目覚めたことで徐々にその頑なな心を軟化させ、部員達とも打ち解け始める。


しかしながら、恩師である安西先生の死亡事故を引き起こし高校を退学。
卒業後は派遣社員となるも周囲と上手くなじめず孤立。

誰も信じず、社会との関りを断ちストイックなまでにクライミングの道を追求していく。

桜木は校内暴力により退学、成人式で大暴れするマイルドヤンキーに。

成人後に再会した流川の貯金を騙し取りFXに費やす。


クライミング部のマネージャーを務める赤木春子は卒業後キャバ嬢に。

ホス狂いで借金を抱えていたこともあり流川の貯金を持ち逃げする。

安西先生は落石が顔面に衝突し死亡。
ざっと思い返した限りでもこれ程ある。
見ているだけで気持ちが沈んでくるのがお分かりいただけると思う。一体どうしてこうなった?
その後も裏切り、迫害などの憂鬱な展開は続き、その都度主人公は心を閉ざし、社会から距離を置いていく。

後半は作者の圧倒的な画力を基にした心理描写がメインとなっていき、とっつき辛い印象もあるが、ヒューマンドラマとして非常に優れた作品であると断言できるため、興味を持たれた方は一読してみて欲しい。
特に主人公の卒業後の境遇はゼロ年代の、就職競争のレールからあぶれた若者たちの気持ちと上手くリンクしており、当時去就を迫られていた私も強い共感を覚えた思い出がある。
全てを投げ打って「世界一の山に登る」という人生の目標を掲げた森文太郎。
果たしてその行きつく先とは。
是非ともあなた自身の目で確かめて欲しい。
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ちなみに、軽いネタバレになるが、劇中2巻において、いずれ主人公と相搏つであろう強キャラとして原 渓人という人物が登場する。

今後ライバルの一人として主人公と鎬を削ることが予想されたが、最終話付近まで一切音沙汰無し。
再登場時はなんと凍死体として再会する。
なんだこの漫画……。
いかがでしたでしょうか?
例に挙げた通り、鬱展開の多い漫画ですが、個人的にはとても面白く、思い入れの合った作品ですので気になった方は是非とも手に取ってみてください。
それでは、またお会いできる日まで。
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